PERRY RHODAN ONLINE CLUB presents: モードレッドサイクル - Story Arc MORDRED.  第2話: 「カウトーン・ディスペイアーという名の少年」  -  彼の運命は定められている。少年は脅威となった。

MORDRED Story Arc - 第2話  Nils Hirseland著作, Erwin Eggenberger作画, Translation by Thomas Steinborn英訳, 松浦寛人和訳


この小説の主な登場人物:

カウトーン・ディスペイアー(Cauthon Despair)
封印された運命を持つ少年。
ペリー・ローダン
彼はカウトーンの世話をした。
ヴィルサル・セル(Wirsal Cell)
物騒な助言者。
ツエントラ・ソリンガー(Zantra Solynger)
カウトーンの生涯の恋人。
タズ(Tuzz)イヴィ(Ivy)・ディスペイアー
カウトーンの縁者。
アウレク(Aurec)ホーマー・G・アダムス
彼らはモードレッドの力のデモンストレーションを力なく眺めるしかなかった。

過去: 新銀河暦1270年10月, 8年後…

生パーティにはそれほど多くが招待されたわけではなかった。より正確には、 誕生日、少年はそれほど大きくないテーブルセットの前にみすぼらしい ロボットと二人だけで座っていた。
彼の8回目の誕生日であった。以前の誕生日と何ら変わることはなかった。 カウトーンには友達が全くいなかった。級友たちは幼稚園の時にすでに 彼には実の両親がいないということで彼をあざけっていた。小さい子供には なぜ他の人が彼を好きにならないのか解らなかった。そして小学校でも 何も変わらなかった。彼を好きになる者は誰もいない様であった。始め 彼は一人の友人パオロ(Paolo)を得た。しかし、その後彼は引っ越していった。 カウトーンは他の子供たちにあえて話し掛けようとはしなかった。他のみんなは 彼の内気さを誤解した。彼は2年前にプレゼントとして1体のロボットを 贈られた。おそらく彼の叔父が中古ロボット屋から手に入れたものであろう。 いずれにせよ、球形ロボットはいつも2つの腕をガラガラ鳴らしていた。カウトーンは 彼にロビー(Robbie)という空想的な名前を付けた。ロビーは一つ、そして 唯一彼のためにそこにいるものであった。今日の誕生日のプレゼントは 新しいサウンドシステムを持つビデオゲームステーションTHX B-5000であった。 彼の叔母と叔父はまだ仕事であった、何時ものように …
カウトーンの叔母イヴィ(Ivy)は夜遅く帰宅した。彼女はポートアーサー( Port Arthur)の有名デパートで働いていた。イヴィ・ディスペイアーは カウトーンに心のこもらないお祝いを言い、何時ものようにすぐに床に就いた。 デパートでの4時間の仕事は彼女にとって精力を奪うものであることは 明らかであった。カウトーンは彼女がなぜウイークデイの終わりより 2ないし3時間も遅れて帰宅したのか理解できなかった。時に彼女がその間に 何をしているのかたずねた時、彼女は激怒し彼を怒鳴りつけた。
タズ(Tuzz)叔父は宇宙船の2等士官であった。カウトーンは自分自身、宇宙船の 指揮官か宇宙船と雨季のパイロットになりたいと思っていた。彼は宇宙の悪人を 追いかける夢を見ていた。不幸にして、ダズは最良の模範とは言えなかった。 彼はイヴィより遅く、何時ものように酔っ払って帰宅した。彼はよろよろと 歩き、10分もの間カウトーンに気付きもしなかった。彼は甥に近づき「誕生日 おめでとう。」とモゴモゴ言っただけだった。次の瞬間、彼は胃の中のものを バースデイケーキの上にぶちまけた。カウトーンは失望し悲しくなって 自分の部屋に行った。ロビーは若い主人を迎えいれちょっとしたトリックで 彼を元気付けようとした。
「大丈夫だよ、ロビー。また、散々な誕生日だった。」カウトーンは 落ち込んで言った。「誰も僕のために祝ってくれないんだ。」
ロビーは少年に向かって滑空し腕をまわしてやさしく抱きしめた。
「ちょっと違います、カウトーン。私がお祝いします。」カウトーンは 青い大きな目で彼を見た。それは今悲しさをたたえていた。
「おまえは僕と時間を過ごすようにプログラムされている。 自分の意志でそうするんじゃないだろう?」「いいえ、違います。」
「うそつき。」
「ロボットはうそをつきません。」
「それなら、おまえは僕のたった一人の友達だ・・・!」
ロビーは短いインパルスを発してやさしく体に触れた。というのは 人間が抱擁を好きである事を知っていたからだ。
「一人の友を持つことは誰もいないより良いことです。」
カウトーンは立ち上がりビデオゲームステーションのスイッチを入れ タケル人に対する宇宙戦闘ゲームを始めた。彼のスコアはロボットが 感動しうる限りにおいて何時もロビーを感動させた。彼は敵の戦線を ぬって戦闘機を巧みに操った。それは単なる技術を超えた才能であった。
「いつか、僕も宇宙パイロットになるんだ。」
「いつか、あなたは宇宙パイロットになりますとも!」

*

校でのカウトーンの成績は平均の上であった。これもまた、彼が目立たない 理由の一つであった。他の友人は彼をクラスの一員と考えただけであった。 彼は単に才能に恵まれていただけであった。この事は、NGZ13世紀の人間に とっても不安を生み出していた。
校長が授業の最後にクラスの前に進み出た。彼が何か重要なアナウンスを することは容易に予想できた。高い額と眼鏡の男は教卓の前に立ち、両手を おなかの前に組んだ。
「子供たちよ。ペリー・ローダンが来週自ら私たちの学校に立ち寄られます。」
彼の声は喜びと幸福感をあらわしていた。けれども、子供の多くは彼の 予想外の反応をしめした。彼らは単に無関心であったが、カウトーンは 違った。かれは密かな偶像にじきに会えると知ってわくわくした。
彼は出来るだけ早く走って帰って家族にこの良い知らせを伝えようとした。 しかし、気分はすぐに落ち込んだ。遠くからすでにカウトーンは低い声を 聞いた。彼はゆっくりと家に入り居間に近づいた。
「奴等はいつも俺を咎めやがる。俺のせいじゃねえ。奴等のミスだ。」彼は 妻に向かって叫んだ。
カウトーンには何が起こったのかを薄々察することが出来た。
「ただいま。」彼は低い声であいさつした。
「黙って、自分の部屋に入ってろ!」タズ叔父はわめいた。
びっくりした小さな少年は自分の部屋に逃げ込んで鍵をかけた。ロビーが 彼を待っていた。
「やあ、カウトーン!叔父さんは大層機嫌ななめですね・・・。」
「どうしてなの!」
「彼は仕事をうしなったんです。宇宙艦隊が今日彼に規律欠如の理由で,通知 してきたのです。」
「それ、どういうこと?」
ロビーは8歳の少年にこの状況をどう説明して良いか正確には知らなかった。 彼は楽しませるためにプログラムされたロボットにすぎず、父親の役割を 果すことは出来ない。彼はここ2年と言うものその役割をになってきた。 と言うのは、彼がいなければカウトーンは父親すらいないことになると 解っていたからだ。さもなければ、彼は全くの独りぼっちであったろう。 そのため、ロビーは責任感のような物を感じていた。彼の行動は義務感を はるかに越えていた。
「叔父さんは勤務中にしばしば酔っ払っていたんです。」ロビーは少年に 説明し、彼はすぐに理解した。「宇宙航行士であるためにはある種の規律と 責任感が必要です。」
「僕だったら、勤務中はお酒なんて飲まないよ。」カウトーンは会話にけりを つけた。このことで彼は考え込んだ。 「僕のママとパパがここにいたらなあ・・・。」
カウトーンの実の両親については言いにくい話題であった。彼らは惑星ネレス を調査する科学者であった。カウトーンが生まれたのもそこであった。 不幸にして、研究グループの殆どが事故の犠牲になった。当時生後6ヶ月の少年 が唯一の生存者であった。その事故についてのそれ以上の情報は得られていない。 タズ・ディスペイアーが近親者として少年の世話をしなければならなかった。 ロビーはしばしば叔父と叔母がこのことを喜んでいないことを漏れ聞いていた。 彼らは彼を厄介物と考えていた。カウトーン自身がこのことを聞いたことがあるか どうかをロビーは知らない。もし聞いていれば、ロビーは彼に同情を感じたで あろう。もし自分が望まれていない者であると知ったら少年の心には何が起こる であろうか。カウトーンは自分の気持ちを見せていないが、孤独感からの 影響は確かに受けていた。

*

ウトーン・ディスペイアーはその日朝早くに学校に行った。というのは まさに今日がペリー・ローダンの訪問が予定されていた日であったからだ。 少年は興奮し彼に会うのが待ちきれなかった。授業は永遠に続くように 思われた。ようやく時間になった。校長は自ら生徒を集会場に導いた。 カウトーンは正面に走っていき1列目の席を確保しようとした。10名ほどの ボディガードが不死者の周りに集まっていた。そのゲストを見るのは困難だと カウトーンには解った。薄い白髪の制服の男がローダンの傍らに立っていた。 彼の顔は、全身と同じく印象深かった。彼のカリスマは奇妙にもなじみ あるものであった。
数分後ローダンが台に上がったとき、彼の姿は部屋の誰にも見えた。そして かれは子供たちに挨拶した。彼はスピーチを始め、なぜ学校に行くことが、 今のところ退屈で気力を萎えさせさえするにも関わらず、 後々の人生に重要であるかを説明した。
「最低レベルの知識は不死者にとっても必要です。」彼はやさしく微笑んで 説明した。「さもなければ、私とて時には苦しい生活を強いられるでしょう。」
ペリーが現在の銀河系の状況について話し、誰もがあらゆる種族に対して 寛容でなければならないと論じたとき、カウトーンは深い感銘を受けた。 ローダンはわくわくするばかりではなく子供たちにとって有益な幾つかの 冒険談でスピーチを終えた。
「キャメロットの宇宙艦隊に入りたい諸君に私はヴィルサル・セル(Wirsal Cell) を紹介しよう。」
ペリー・ローダンは薄くカールした髪の男を指差した。彼は子供たちに微かに うなずいた。ヴィルサルは腹の前に手を組んでいた。彼はマイクに進み出て 短いスピーチを行なったとき非常に落ち着いて見えた。
「子供たち、キャメロット艦隊に知性と経験のある人材を迎えることは非常に 大切なことです。銀河系の人々は今混乱の最中にあります。私達が私達の銀河系の 平和の最後の希望なのです。人生で何か重要なことをしようと思っている人は キャメロット宇宙艦隊に連絡すべきです。ペリー・ローダンでさえ、何千年も 前にそこから出発したのです。」
このような言葉はカウトーンに影響しない訳はなかった。彼は催眠術にかかったかの 様に椅子に座ってその男の言葉に耳を傾けた。カウトーンは何か重要な物の一部に なりたかった。ペリーは子供たちに向き直り誰か宇宙航行士になりたいかをたずねた。 多くの少年少女が叫び声を挙げて手をあげた。ペリーは彼らのかわいらしい陶酔感 にほほ笑んだ。けれども、一人が落ち着いて立ち上がり壇上への階段に歩み寄った。 級友たちは笑いこけた。少年はペリーとヴィルサルの前で自分を指差した。
「僕はあなたのようになりたいんです、ペリー・ローダン!」
笑い声は大きくなった。ペリーには「誰もおまえに期待しない!」とか「カウトーン は大馬鹿ものだ!」とか聞こえた。
彼は笑い声を無視して若いディスペイアーの前に膝をついた。 ペリーは両手を彼の肩におきほほ笑んだ。暖かく親しみ深く頼もしいほほ笑みで あった。
「君の名前は?」ペリーはたずねた。
「カウトーン、・・・、カウトーン・ディスペイアー!」
彼の顔はしばし堅くなったがすぐに再びほほ笑んだ。
「もしこれが君の目的なら、ずっともち続け、何が起ころうとも他人によって 諦めさせられてはいけない。」不死者は少年に言った。
カウトーンはほほ笑んだ。誇りで一杯であった。他の子供たちはペリーの 言葉を聞いて静かになった。カウトーンはいつもは汚く軽べつされていたが 今この瞬間は興味の的になっていた。他の子供たちはペリーに駆け寄り サインをせがんた。
カウトーンは長い間細胞活性装置保持者を見つめていた。突然、彼は肩甲骨の辺りに 2本の手がおかれたのを感じた。
「君には潜在能力がある。」背後の男は言った。「もし、正しく開花させれば、 そう、8年後にはアカデミーで再会することになるだろう。」
カウトーンはゆっくり振り向きヴィルサル・セルを見た。再び、彼はある種の 親しみ深さを感じたが、ヴイルセルにたずねる前に彼は行ってしまった。
この日はカウトーン・ディスペイアーにとって忘れられぬものになった・・・。

*

ズ叔父は再び仕事を見つけられなかった。誰もが彼がキャメロット宇宙艦隊を やめた理由を知りたがった。理由を知ればタズに仕事を与えようとする者は いなかった。彼はすぐに飲み始め、誰も彼に話しかけようとはしなかった。 イヴィ叔母は殆どカウトーンの世話をしなかった。このことによりロビーの 役割が増えた。ロボットは料理をし、洗濯をし、部屋の掃除をし、カウトーン の遊び相手をした。ロビーは母親、父親、兄弟、友人の何役もこなした。人工 知性体は、もし彼がいなくなればカウトーンはどうなってしまうだろうかと 悲しく考えていた。奇妙な感覚が彼に生まれた。彼は責任感を感じ、 カウトーンの将来に思い悩んだ。とは言え、彼は1個の機械に過ぎなかった。 有機的部分が若いカウトーンに対する母親のような感覚を発展させていたのだ。 ロビーはそのことを自分自身に説明できなかったが、彼がいなけれはカウトーンは 全くの独りぼっちになることを知っていた。
その後2年間、カウトーンは成長し小学校を最優秀で卒業した。彼は中学校に進んだが、 そこでも成績はずば抜けていた。彼は11歳の誕生日を数人の級友と祝うまでになって いた。引っ込み思案な性格にもかかわらず彼はある種の尊敬を得るまでになっていた。 不幸にも、お祝いは叔母によって邪魔された。イヴィは彼の部屋に駆け込んで友人たち をほうり出した。彼女は彼を怒鳴りつけ、ロビーが仲裁するまでカウトーンを殴り 続けた。彼は何が起こったのかたずねた。
彼女はつっかえながら酔っ払った夫が橋から落ち、それがもとで亡くなったと話した。 君の悪い沈黙が支配した。
カウトーンは沈黙を破った。「あなたたちにはそんな権利はない!タズ叔父さんと あなたは僕の最初の楽しい誕生日をめちゃめちゃにしたんだ。」彼は号泣した。 「あなたたちはいつも何もかもめちゃくちゃにする。」
「この恩知らずのててなしご。」叔母はそう答えて部屋を出た。
カウトーンは部屋の隅に行って泣きじゃくった。ロビーは彼に向かって滑空し 慰めようと抱き寄せた。

*

友たちはカウトーンの状況をよく理解していなかった。 そのうち2人、アレックス・ シャエファー(Alex Schaefer)とクリチェン・シュミット(Krizian Schmitt)、は カウトーンをいじめの目標に選んだ。彼らは休み時間ごとに他人を彼にけしかけたり、 彼をからかったりした。学校は地獄の様に変わりつつあった。彼らはカウトーンの あらゆる弱点を愚弄した。
ロビーはこれを黙って見過ごすことは出来なかった。彼は毎日カウトーンを学校まで エスコートし、迎えに行った。少なくとも帰宅時のいじめは避けることが出来た。 カウトーンは暴虐に抗おうとは決してしなかった。ただ、ますます内気になり 他人と距離をおくようになった。
ある日、クリチェンとアレックスは彼の後を追っかけた。彼らは彼に飛び掛かり バランスを崩して大地に倒した。ロビーは彼が再び立ち上がるのを助けた。
「おい、クロトン(Clothon)。」クリチェンはからかいはじめた。
「逃げましょう!」ロビーは友を守った。
けれども二人は全く気にかけなかった。彼らはロボットを笑った。再びカウトーンに 挑みかかったが、今度はロビーが割って入り二人をつかまえて不潔な水たまりに 投げ飛ばした。
「あなたたちもこれで懲りたでしょう。」彼は少年達に言って、カウトーンと 立ち去った。
1週間後、クリチェンとアレックスは彼らを待ち伏せた。今度はスタンガン を持っていた。クリチェンの母親のものであった。彼女は護身のために 持っていたのだ。ロビーが通り過ぎた時、彼らは撃ちロビーの動力系統に 悪影響が起こった。彼の反重力装置は停止し地面に墜落した。押し殺された音 が悲惨な光景に続いた。
二人は隠れ場所から飛び出し、花火をロビーの開口部に突っ込んだ。カウトーンは 止めさせようとしたがアレックスが雄牛の様にカウトーンを壁に押しつけた。 ロビーは自分を守ることが出来なかった。
「カウトーン!」ロビーは鈍い声で叫んだ。
ショックでヒューズがとんだ。彼はいわば麻痺してしまった。クリチェンが 花火に火をつけた。
「だめだ!ロビー!」カウトーンは必死に叫んだがロボットは答えることが 出来なかった。
爆発により回路と記憶モジュールの殆どが壊された。二人は彼を地面にたたきつけ 胃を殴った。彼は泣きながらただ一人の友のところに這っていき金属の胴体を 振った。
「ロビー!ロビー・・・ロビー・・・!」
しかし、ロボットはもはや答えることは出来なかった。人工知能を形成する 回路は修復不能なまでに壊されていた。ロビーは死んでしまった!
カウトーンは悶えて泣き叫んだ。今や彼は全くの独りぼっち・・・。

*

ヴィ叔母は甥の苦悩に興味を示さなかった。彼女は自身の「苦悩」に働くのに 忙しかった。夜を過ごした多くの男たちが彼女を大いに助けるようであった。 ロビーはリサイクルセンターに買い取られ、カウトーンは急速に体調を崩して いった。彼は病気になった。医者は心理的な問題で学校には行くことは出来る と考えた。これを聞いてイヴィは何も考えなかった。彼女は甥を学校に送り出した。 アレックスとクリチェンに会うことは避けられなかった。彼らは学校の入り口 で待ち構えており、姿を見るなり彼に近づいてきた。彼らは暗いすみっこに 引っ張りこんだ。
「さあ、おまえのがらくたの山は跡形もなく吹き飛んだのか、クロトン?」 帽子をかぶった少年が彼を制止した。
クリチェンはカウトーンが我慢できなかった。 クリチェンが首席になりたかったのに彼のほうが学校の成績が良かったからだ。
カウトーンは再び泣き出した。アレックスは彼を壁に押しつけた。
「泣き虫め!」
「ほっといてくれ」彼は泣き声でいったが、二人は離そうとはしなかった。 彼らはロボットの壊れた様をからかった。生まれてはじめて本当の怒りが カウトーンに沸き上がってきた。怒りと憎しみは二人を恐れる気持ちを 上回った。彼はアレックスの顔に唾をはきかけた。
「おまえたち二人とも死んでしまえ。」彼は怒りに震えて彼らに叫んだ。
「死ね!おまえたちはじぶんで自分を殺してしまえ。」彼は繰り返した。
涙が顔を伝わったがついに彼は彼らに立ち向かう勇気を見いだした。アレックスは 催眠状態に入ったかのようにカウトーンを放した。クリチェンも同様に無表情 に見えた。二人はどちらもナイフを抜き、お互いの腹に突きたてた。
カウトーンは自分の見たことが信じられなかった。二人はまさに彼の行ったとおり に行動した、しかしなぜ?カウトーンはパニックに襲われて帰宅し物陰に隠れた。 二人の死と自分の関係を見つけ出す者がいないことを祈った。実際、誰も 気がつかなかった。警察は二人の間のいさかいが致命的な喧嘩に発展した のだと解釈した。
カウトーンはこの出来事については何も言うまいと決心した。そしてこの奇妙な 能力についても何も言わなかった。彼は再び他人を傷つけることを恐れて もう一度試そうとさえしなかった。

*

の後の数年間はカウトーンにとってもっとも寂しい時期であった。彼には 語るべき人はもはやいなかった。悲しい成長期であった。16歳のとき、10年来で 最高の成績で彼は学校を卒業した。イヴィ叔母は借金地獄に入っていたが毎日の ように男たちが訪問していた。カウトーンはこれがもっとも重要なことへの 資金源であると気付いていた。彼はペリー・ローダンとヴィルサル・セルの 言葉を覚えていた。二人は宇宙艦隊アカデミーでの再会を予言したいた。そのため、 彼は叔母にさよならを言い、アカデミーに入学した。彼女は甥がいなくなることを 悲しまなかった。数カ月後、銀河系を巡る「旅客」と一緒にキャメロットを離れた。 キャメロットを離れようと決心した全ての人と一緒であったので、彼女の記憶の 一部はキャメロットの座標と共に消えてしまった。
最初の日、およそ20名の候補生がアカデミーに現れた。安心したことに、カウトーン の古い級友は誰も混じっていなかった。アカデミーはかなり巨大で建築様式は 印象的であった。4本の柱が入り口を飾っていた。古の太陽系帝国の時代からの モスキートジェットの像が屋根に乗せてあった。
教官が近づいてきた。彼は好戦的に見えた。
「注目!」太ったお腹の男が叫んだ。
候補生たちはびっくりしたわけではないが、彼の命令に従った。 もう一人の男が彼らに近づいてきた。カウトーンはすぐにだれだかわかった。 彼は過去8年間であまり変わっていなかった。
「紳士淑女諸君!諸君ら全てを心から歓迎する。私はヴィルサル・セル。 諸君の主任教官になる。」彼は中年男の低い声でいった。
ヴィルサルは制服の代わりに紫色の礼服を着ていた。彼は5列に並んだ候補生たち に歩み寄り一人一人注意深くチェックした。彼は各人の名前をたずねた。 最後に彼はカウトーンの前に立った。少年は低い声で幾分誇らしげに自分の 名前を告げた。ヴィルサルは立ち止まり腕を腹の上で組み合わせた。 彼は名前を繰り返した。
「私は知っていた、再び会うことを、カウトーン!」
「どうして知ったのですか?」
「それはおまえの運命だ・・・。さて、候補生たちよ、諸君の部屋に 案内しよう。理論面での授業は2時間後に開始する。」
アカデミー内部はカウトーンがこれまで見た何処よりもずっと快適であった。 彼の以前の家は快適とは言えなかった。ルームメイトの名前はヘルゲ・ ゲーベル(Helge Goehbell)と言った。この若いキャメロット人は禿げ頭で 気が合いそうには見えなかった。初めからカウトーンの気に入らないいくつかの ルールを主張し、カウトーンもヘルゲに譲った。
最初の授業は銀河系の政治と歴史についてのもので2時間後に始まった。 ヴィルサル・セルが教師であった。
カウトーンは他の4人の候補生と一緒に席についた。彼らは、アラン・コープ (Alan Coops)、ベンジャミン・プラジー(Benjameen Pluzzy)、 アンドレ・ヴァムサル(Andre' Vamsar)、そしてシルケ・シルド(Sylke Schild) であった。4人は風変わりな連中であった。アレンはすぐにシルケと いちゃつきはじめたので、どうやらおかまのようであった。シルケはそれほど 知性的な印象は無かった。ベンジャミンは彼のGTIシフトについてのみしゃべり、 宇宙艦隊の戦闘機を楽しみにしていた。アンドレも印象は悪かった。 というのはうんざりした会話に巻き込もうとしながら始終カウトーンをにらみつけて いたからだ。
カウトーンにとって助かったことに、ヴルサルはすぐに部屋に入ってきて 生徒たちを再び歓迎した。彼はすぐに授業を始めた。
「防衛訓練を実際に始める前に、なぜそれが必要かを理解せねばならない。」 彼は話し始めた。
カウトーンは彼の言葉を熱心に聞いた。ヴィルサルは人類の歴史を教えた。 彼はペリー・ローダンのポジティブな影響を講義した。彼は太陽系帝国と 当時は存在し今は失われた同盟関係を賞賛した。
第1限はカウトーンにとって 非常に早く修了した。しかし、彼は翌日を心待ちにしていた。

*

めの数週間は何事もなく過ぎた。彼は授業に注意を集中ししだいにヴィルサル・ セルの言葉を信頼するようになった。元軍人は若いディスペイアーに彼の理念を うえつけた。
テラの歴史の授業は終わった。12週間で過去8000年をカバーし詳しい議論が 行われた。第三勢力の設立後の時期が特に強調された。
1週間後に試験が行われカウトーンはクラスで最優秀のA+で合格した。他の 候補生たち、中でもヘルゲとアンドレ、の間に妬みが広がった。シルケと アランはそれほど出来が良くなかった。ヴィルサルは失望を示した。
「おまえたち二人の馬鹿さかげんがこのまま続くのなら最初の訓練すら参加する ことはありえないだろう。私は何に対して戦っているかを自分自身で考え 理解できないような愚か者のサポートはしない。どちらの側に自分がいるか を決定しなければならない。」
これらの言葉はカウトーンに深い印象を残した。
「けれども我々は常に正義の側で戦っています。」アンドレは反論した。
ヴィルサルは口髭をたくわえた細身のキャメロット人に向き直った。 彼は2〜3歩歩み寄った。
「あらゆる党派がそう考えている。ラール人は自分たちの領域を広げ 天の河銀河を征服する権利があると考えていた。しかし、彼らは 間違っていた。私の言いたいのはおまえたちが戦うことが出来るためには おまえたちの脳みそを使わないとならないということだ。 目的の存在を信じ自らの命をかけてそれを守らねばならない。」
今度はカウトーンが注意を引いた。
「けれども、何が善で何が悪かをどのようにしたら決められるのですか?」
ヴィルサルは反論を楽しんだ。彼は黒いブロンドの髪の若いキャメロット人に ほほ笑んだ。
「良い質問だ、カウトーン。これについての答えを与えよう。最終的な目標を 心にとどめておくように。」ヴィルサルは説明した。
ほんの数人だけが教官の意見についていけた。彼はわかりやすい例を与える ことにした。
「キャメロットが天の河銀河を征服し細胞活性装置保持者の支配を導入 すると決めたとしよう。このことはどの種の目的かな?」
「ネガティブな目的だ!」カウトーンは思った。
「違う!ポジティブな目的だ。」ヴィルサルは予想外の事を言った。 「究極の目的は天の河銀河を統一し永遠の平和を回復することだ。」
しばし部屋に沈黙が支配し、ようやくカウトーンが発言した。
「けれども兵器と暴力の開発は平和を打ち立てるために耐えねばならない 事なのでしょうか?その代わりに外交と政治を働かせるべきではないので しょうか?」
ヴィルサルは体をゆすって笑った。
「この種の政治は新銀河歴の始まりの頃から働いている。それは非常に 限られた役にしか立たないし、銀河系が2度も征服される原因になったのだ。 いまや能力ある人々が銀河系を支配する時だ。」
深く感動したカウトーンは授業を終え余暇時間となった。彼はキャメロットの インターネットに夢中になった。床につく前に何時間もシントロニクス の前に座ることが出来た。

*

の直後実技試験が迫ってきた。候補生たちは始めフライトシミュレーターで 訓練された。カウトーンの成績は再び模範的であった。彼の反射能力は印象的 であった。ヴィルサルはぺりー・ローダンにこの驚くべき少年について 報告した。この時からペリーはアカデミーでのカウトーンの進歩について 定期的に注目した。
1年後に中間試験が行われた。今度もカウトーンは模範的な成績であった。 彼は理論試験を他に抜きんでた成績で合格した。
候補生達が宇宙で最初の飛行を行なう時が近づいてきた。その夜、彼らは 集まってビールをかたむむけた。アンドレはいつものようにカウトーンを 睨み付け、下品な批評を行なった。アレンはいつものように酔っ払って シルケに夢中であった。ベンジャミンは本物の戦闘機による最初の飛行 を待ち望んでいた。
ヴィルサルはここでの訓練を指導しなかった。 経験豊かな戦闘機パイロットのパット・ラオチ(Pat Raoch)が行なった。
彼は候補生達にまず編隊飛行を命じ、次いで3機ずつのグループで機動演習 を命じた。セレス(Ceres)太陽系の周辺部には小さな小惑星帯が形成されていた。 演習目標はそこを飛びぬけることであった。カウトーンとアンドレはパットに続いて 安全に小惑星帯を通過した。アレンとシルケは大きな問題を引き起こした。 パットは引き返し彼らをガイドした。ベンジャミンは何も問題がないようであった。 彼は高速で小惑星帯の中を操縦した。
「ベンジャミン候補生、速度を下げよ。」パットはインターコムを通して 命じた。しかし、若いキャメロット人は聞こうとしなかった。
「冗談を、私は完全に操縦しています。」彼は嬉々として答えた。
「自分を過大評価するな。直ちに速度を下げるんだ。これは命令だ!」
遅すぎた。ベンジャミンは制御を失い小惑星に衝突した。シールドは閃光を発した。 彼はピンポン玉の様に次の小惑星にむかって弾き飛ばされた。シールドは今度は 破れた。ようやく彼は戦闘機の制御を取り戻した。彼は深い息を吸った。
「危ないところだった。」彼はマイクロフォンに向かって笑った。
「見ろ!」彼の上官は叫んだが遅かった。ベンジャミンは彼に向かって流れてくる 厚切れを認めたが遅すぎた。戦闘機はひびの入ったガラスのように壁にぶつかって 崩れた。衝突はベンジャミン・プラジーの運命を決めた。

*

故は訓練に影を落とした。調査が行なわれ、パット・ラオチは辞職した。候補生の 幾人かは訓練を諦めた。けれどもカウトーンはわきめもふらずに訓練を続けた。 彼は際立った航空士とパイロットに成長した。彼は18歳で最後の学期を開始した。 この学期は彼の将来の生活に決定的な影響を及ぼすかも知れない。
ヴィルサルは飛行連隊にアルコン人達がLFTを攻撃し、最後にはLFTとテラを征服した という状況での任務をあてがった。候補生達の任務は水晶帝国にたいして 軍事行動を起こすというものであった。ヴィルサルの提案した方法は 上部集団の拒否に出会った。
「アルコン人はキャメロット人に比べて低能で傲慢で原始的である。」ヴィルサルは 授業の間軽蔑して主張した。「確かに、彼らは高度に発達しているかもしれないが、 指導的な国家とはなりえない。これはテラナーの運命である。そして、我々、 キャメロット人は一種の第一守護者としてテラナーに属している。それゆえ、 アルコン人をしかるべき場所に追いやるのは利他主義的な仕事である!」
候補生達は彼らの導師の意見に染められた。すぐに彼らはヴィルサルの指導下で 研究を始めテラの再征服のための戦闘計画を練り上げた。
しかし、ヴィルサルはペリー・ローダンに呼び出された。6月4日がいわば 一次諮問の日であった。
ヴィルサルはペリーの大きなオフィスにゆっくりと入った。不死者は椅子に 落ち着くなく座っていて、彼を怒りを込めて検閲した。しかし、彼は 礼儀正しさをくずさすヴィルサルに席を勧めた。
「なぜ私が呼び出されたのでしょうか?」ヴィルサルは無関心を装って たずねた。
「君が十分に知っているとおもうが。君の教育の趣旨は時代錯誤で キャメロットの原理とは相入れない。」ペリーは説明した。
彼は落ち着いて視線を返しているヴィルサルを注意深く観察した。ペリーは この男の目にこれまでに示したことのないある種の冷たさに気がついた。
「知性的に劣った連中がまだ軍事力を持っている事実を思い起こせば・・・。」
「それを大衆の扇動と呼ぶのだよ!」
「不愉快な言葉ですな。」
「君のいわんとすることにぴったりではないかね。」
ペリーは椅子から立ち上がり窓辺に歩いていった。
「最後に残るのは天の川銀河の国家の恨みだけだ。どうして若いキャメロット人 たちに命を賭ける価値を見いだせるかね?」彼は反対側の人物にたずねた。
ヴイルセルも立ち上がって歩いてオフィスを横切った。彼は棚に並べられた 昔の様々な時代や文化の加工品を見た。
「ペリー、私は候補生たちに我々の使命の重要性を教えています。我々が 主導権を取って権力を握るときには彼らはいつでも従うでしょう!」
彼は決然としてペリーの目を見た。細胞活性装置保持者は彼の目付きに 不快なものを感じた。同時にそんな発言に驚いた。
「我々は銀河系の権力を握るなんて野望は持たない。」彼は反論した。
「それが永遠の平和に続くたった一つの道です。銀河系人は自らを支配でき ません。彼らは子供のようなものです。」ヴィルセルは言い張った。
「いくつかの国にはその言葉が当てはまるだろう、しかしそんな平和は 軍事力によってしか実現できないだろう。」
「結果は手段を合法化します・・・。」
「私は違う意見だ。」
しばらく沈黙が続いた。ペリーは椅子に座った。
「我々の銀河政策の見解を論じてもしかたがない。これについては君と私の意見は 違いすぎている。私は君の教育方針を変えるようにお願いだけしよう。さもなくば、 銀河系国家に対抗する宣伝活動から遠ざかるように命令しなければならない!」
ヴィルサルはそれがペリーの場合どれほど重大なことかに気がついたが、自分の 視点を維持した。
「私自身を否定するような命令をあなたは出すことはできない!」
ペリーは極めて有能だが危険な教官の頑固さに困惑した。
「もし仕事を続けたいなら従わなければならない、ヴィルサル。」ペリーは 断固たる口調で言った。
彼は一人の男に望まない事を強いるのは好きではないが、他に選択の余地 はなかった。
「いいえ、私は従いません。」
ペリーは深いため息をついて頭を振った。こめかみをマッサージしてから 机にこぶしをついて立ち上がった。
「それなら君の契約は終わったと考えてくれたまえ。残念だが・・・!」
ヴィルサルは優越ぶった冷笑を浮かべた。ペリーはこの頑固さが理解できなかった。 テラ生まれの男は一言も発せずキャメロットの指導者のオフィスを離れた。

*

リーは最終試験の日に自ら現れた。レジナルド・ブルとグッキーはペリーの 傍らに立っていた。試験は理論的パートと実践同様の模擬パートからなっていた。
理論的パートは複雑な作戦からなっていた。試験はほんの数名の候補生だけ が合格するように設定されていた。模擬戦闘では彼らが互いに戦うことを 要求された。カウトーンはシルケとヘーゲルを「射殺」した。アンドレは アレンをうまく料理した。カウトーンは二人の間の対決を巧みな策略で けりを付けた。最後に実践飛行でのレースがあった。惑星系やキャメロット の異なる区域を飛び回らねばならなかった。再びカウトーンとアレンの 対決になり、再びネレス生まれの男に凱歌が上がった。
カウトーンは 過去10年間でもっとも優秀な成績で卒業した。今や最後のパーティが 行われているところであった。
アンドレは平静に戻って二人の女性を連れてパーティにやってきた。 セリナ(Celine')は自分用に、快活なブロンドのマリッサ(Maryssa)は カウトーン用に。マリッサは均整の取れた体と生まれ付きの美貌を 備えていた。赤と黒の引き締まったドレスは突き刺すようなネックレスと高いヒール と相まって息をのむ美しさを強調していた。カウトーンはしばらく言葉を 失っていた。これまで彼の題目には女性は入っていなかった。
「これは勝者へのお祝いさ。」アンドレは笑って言った。
ペリーは宴会の前にスピーチを行い全ての候補生を賞賛した。中でも彼は カウトーン・ディスペイアーにお祝いの言葉をかけ、彼の際立った才能に 賞賛をあびせた。その後でペリーはカウトーンに個人的な会話を 申し込んだ。
「君には感心させられたので私は君を援助したい。」ペリーは一言で 言った。
カウトーンは驚いた。彼はペリーが教官であり相談者であるヴィラサル・セル を罷免したことで少し憤慨していたからだ。けれども、おそらくヴィラサルは 大風呂敷を広げすぎたのだろう。
「何と言っていいかわかりません。」彼は注意深く答えた。
ペリーは優しくほほ笑んだ。親しみ深い表情は若いキャメロット人に 安堵感を与えた。
「時間をかけて考えたまえ。他により良い選択肢がないなら、私が君の 世話をしようか?私のバンガローに住んでも良いのだよ。」
「おお・・なんと気前の良い。なぜ貴方がそうして下さるのですか?」
「私には君の潜在能力がわかる。グッキーはミュータント能力すら 探知している。」ペリーは説明した。「君がよければ我々でこれを 開花させることが出来る。8歳の少年の夢として、君の最大の夢は 我々の側にいることだと言わなかったかね?今私は君にこの機会を提供 しよう。」
その言葉はカウトーンに影響を与えた。今、19歳の少年はほほ笑んだ。ペリーは カウトーンに手を差しのべ、彼は受け入れた。
「随分長い間わが家に若者を迎え入れる日を待っていた。といっても 私が年寄りとは思ってくれるなよ。」

*

ーティは今やたけなわであった。ブリーは大いに楽しみウルグス(Vurguzz) を次々に空けていった。とは言っても口当たりの良い17%のやつで、眠りこけて しまうような58%の混ぜ物ではなかった。彼はビール、ウイスキーそしてラム酒 も手当たり次第に空けていった。アランだけがこのどんちゃんさわぎで 細胞活性装置保持者に対抗しようとしているように見受けられた。完全に 酔っ払って彼はシルケを引き寄せ彼女と共に自室に消えた。 マリッサはそれまで他の男と踊っていた。カウトーンは戻ってきて 今日のパートナーを探した。彼女は手を振って合図した。音楽のリズムに あわせて踊る美女を見て彼の心拍数は高まった。彼はこれまで踊りを 習ったことが一度もなかった。そのようなものにはお金をかけていなかった。 彼にはこれまでダンス教室に一緒に通うようなガールフレンドもいなかった。 まごつきながら彼はほほ笑みかけ、自分の不器用な様を説明しようとしたが 彼女はダンスフロアーに引きずり出して励まして踊らせた。彼は大馬鹿者の 様に感じたが彼の飛び回る様を誰も注目していないようであった。 マリッサは見るからにそれを楽しんでさえいた。
その後歌が終わって、彼女は疲れてバーに向かった。 3人の男たちが彼女を誘った。彼女は彼らとちょっと戯れたが すぐに再びカウトーンに向き合った。彼はなぜこの女性が 自分を気に入っているのか分からなかった。アンドレが彼をほめて いたのに違いない。
「ペリーはあなたと何を話していたの?」彼女は知りたがった。
「彼は僕に教育と援助を申し出たのさ。僕は彼のバンガローで 住むことになったんだ。」
マリッサは言葉をなくした。
「あなたは本当の英雄よ、おちびさん。」彼女は彼を崇拝した。 彼女は体を寄せつけた。
「そんな人こそ私にふさわしいわ。」彼女はささやきかけた。
カウトーンはほとんどふるえ始めた。彼はちょっと笑ったが何というべきか わからなかった。
彼女はビールを一びん取って一気に空けた。そうしてタバコを吸った。 カウトーンは煙に咳込んだ。彼女は静かに笑い、ダンスフロアーに 再び彼を引きずり出した。
二人は踊りながら近づいた。
「あなたはこれまで何回寝たことがあるの?」彼女は静かに たずねた。
「何だって?」
「ベッドのことよ!」
「女性と?」
「女でも、男でも、犬でも、ブルー人でもトプシダーでも、 私は誰とでもオープンよ。」
これを聞いてカウトーンは胃にけいれんを覚えた。テラナーとブルー人が するさまをほとんど思い描くことは出来なかった。 彼はマリッサの質問にまだ答えていないことを思い出した。
「これまで女性と寝たことはないんだ。男や犬や異星人ともね。」 彼は皮肉に付け加えた。
マリッサは抱擁を振りほどいた。
「冗談でしょ。もう二十になるのに童貞なの?」
「そう・・・だけど?」
彼女は笑い転げた。彼女は彼を笑い飛ばした。始めは彼も笑ったが 連れ合いの良く通るふるまいは彼を不快にした。彼女の笑い声が 大き過ぎて多くの人々がこれに気がついた。
「ご免なさい、でも全くなんてことでしょう。」彼女はあざけって言った。
カウトーンは彼女の馬鹿笑いを共有出来なかった。彼はダンスフロアーで 凍った様に立ちつくした。ロビーが壊されて以来感じたことの無い ものを感じた。憎悪!
彼はその女を軽べつした。
「どうして彼女は僕を笑えるんだろう?」彼は自問した。「豚のように 不平を言って女とベッドでいちゃつくのに熱心でないからと言って?」
カウトーンは頭を振ってダンスフロアーを離れた。マリッサはとっくに 彼を見捨てていた。彼女は次の候補生に身を委ねて熱烈にキスを交わしていた。
「望むらくは、彼がアッカローリーやヒュプトン人(Hyptons)と寝たことが ありますように。そうすれば彼女も満足だろう。」カウトーンは思った。
夜は全く荒廃していた。再び彼は他の人が楽しんでいるのに孤独であった。 ペリーはパーティを抜けようとした。彼好みの音楽ではなかったし、 ブリーほどアルコールをのむことを楽しめなかった。
カウトーンは彼に近づいた。
「明日から一緒に住んで良いですか?」
「もちろん。」ペリーはほほ笑んで返答した。「歓迎する。」
「この少年はもっと良い生活をする権利がある。」彼は考えた。 「両親の運命を考えただけでも・・・。」

*

の何週間かはおそらくカウトーン・ディスペイアーのまだ若い生涯で 最良の時であった。 彼は細胞活性装置保持者が与え、そして教えた贅沢を心から楽しんだ。 彼はダゴルの戦闘術と徒手防御を分子破壊剣の扱いと同様に学んだ。
グッキーは彼のミュータント能力を伸ばそうとしたが、あらゆる憎しみや 欲求不満がカウトーンに残っていることを発見し、中断した。ネズミ ビーバーはペリーに警告し、カウトーンをまず精神的に訓練すべきだと 考えた。
ペリーはイルトの勧めを受け入れ、カウトーンとの個人的な会話の時間を 多くとった。カウトーンは真の友人を持ったことが無くいつも恥をかかされ ていたことがわかった。彼は自分が悪い間違った扱いを受けていると 感じていた。それゆえ、彼は多くの人々に対する自然な憎しみを育んで きた。それにもかかわらず、彼はいつの日にかむくいられることを信じて 人々を助け何か良いことをしたいと思っている。
彼はペリーに多くのこと、例えば、彼の唯一の友達はロビーであったことや 他に友人のいないことを打ち明けた。
二人は居間に腰掛けていた。暖炉のちらつきは落ち着いた光を与えていた。
「時に思うんです、本当の家族がいたらなあって。」カウトーンは言った。 「わかりますか、母と父です。」
ペリーは静かに彼の話に耳を傾けた。
「そして夢に見るんです。理想とする少女と出会い、彼女を家につれて帰り 両親に紹介する様を。そして一緒にクリスマスを過ごすことを夢に見るんです。 実際、僕は楽しいクリスマスを過ごしたことがないんです。」
不死者はカウトーンの肩に手をおいた。
「今年はきっとすごせるさ。」彼はほほ笑んで言った。
カウトーンはそれを切望した。ペリーは知っていた。カウトーンの心の 憎悪は愛情と情愛によってのみ消滅出来ると。
「奇妙ですね。僕は両親を全く知らないのに夢の中では正確に思い描く ことができるんです。彼らは叔母や叔父とは違っています。彼らは 優しく思いやりがあります。」
「うむ、彼らは実際そうだったよ、カウトーン。」ペリーは答えた。
若いディスペイアーは驚いて彼を見た。
「あなたは僕の両親を知っている?」
「ああ。それほど親しかったわけではないが、彼らは優れた科学者で 素晴らしい人たちだった。」不死者は説明しカウトーンが質問を 続けないように願ったが、彼は続けて言った。
「彼らはどのようにして死んだのですか?叔父と叔母はそれについては ほとんど話してくれませんでした。彼らはある事故の犠牲になったと 言うことですが。」
ペリーはいつかこの質問が来るのではないかと恐れていた。
「そう、その通りだが・・・。」ペリーは実際のところ嘘なのかどうか 知らずに嘘をついた。話題は不快なものになった。
「彼らに何が起こったのですか?」
「私も正確には知らない。わかっているのは乗員が惑星ネレスで事故で 死んだことだけだ。君だけが生き延びロボットによってキャメロットに つれて来られたのだ。」
ペリーは何か嘘をついていると考えると良い気がしなかった。しかし 彼は少年を恐ろしい真実から遠ざけようとした。いずれにせよ 彼らはそれほど知っていたわけではないのだ。4人のキャメロット人が 事故と見なされた奇妙な状況下で惑星ネレスで死んだ。残りのキャメロット 人たちはキャメロットに帰還しようとした。しかし、宇宙船が軌道に到着した 時には、明らかに工作ロボットに殺された死体だけが見つかった。 唯一の生存者は当時まだ小さな赤ん坊だったカウトーンと気の狂った ジル・リーカンという女性だけであった。ネレス人たちの話によると カウ・トーンという名前の異人がかかわりがあったが、キャメロット人 たちの出発の直後に姿を消して以来、再び姿を見せたことはない。
彼はカウトーンにこれら全てを話せなかったしそのつもりもなかった。 彼は別の話題に興味を引き付け、その夜を落ち着いて過ごすことが出来た。

*

ウトーンにとって特別な日はNGZ1282年7月22日の早朝に始まったが、 彼は運命的な出会いを予想もしていなかった。彼はその夜、キャメロット のインターネットでネットサーフィンをしていた。彼はやはりポートアーサー から来ているツアントラ(Zantra)と言う名前の少女のメッセージを 受け取った。 彼は彼女の書き込みに好意を持った。彼女は率直で開けっ広げな 性格のようだった。カウトーンは勇気を振り絞って、一緒に映画に 行くことを持ちかけた。彼女も反対せず、彼らは8月7日のデート の約束をした。
カウトーンは映画館に1時間も前に到着し落ち着き無く、心臓を ドキドキさせて入り口ホールに腰掛けた。彼は長いブロンドの髪で 黒い服の女性を探してまわった。何人かの女性が傍らを通りすぎた が彼女では無いように思った。一人の少女が彼に手を振った。 あれが彼女だった。彼は一目ぼれしたわけではないが、彼女は 非常に可愛かった。 カウトーンは映画館に1時間も前に到着し落ち着き無く、心臓を ドキドキさせて入り口ホールに腰掛けた。彼は長いブロンドの髪で 黒い服の女性を探してまわった。何人かの女性が傍らを通りすぎた が彼女では無いように思った。一人の少女が彼に手を振った。 あれが彼女だった。彼は一目ぼれしたわけではないが、彼女は 非常に可愛かった。
「ハーイ、私、ツアントラ。」彼女は心に直に響くような声で話始めた。 彼女はタバコを吸った。彼は非喫煙者だったのでそれは好きではなかった。 かってペリーが言ったことには、人々がもっと敏感であった時期が あったにもかかわらずタバコは再びファッションになってきている。
彼女は長い癖のない黒ブロンドの髪をしていた。皮膚は滑らかでひび一つ ない。体は頑強ではなくほっそりしていた。1グラムの余分な脂肪もなかった。 カウトーンが気付いた唯一の点は少し長すぎる鼻であった。それは決して 醜い効果を持たなかった。彼女と映画館で過ごせは過ごすほど彼は 彼女が好きになったが、まともな会話を始めるには内気過ぎた。おまけに 彼は女性と過ごした体験が無かった。彼は彼女に何と言うべきかを 知らないだけであった。
さらに残念なことに彼女からイニシアティヴを取ることも無かった。 彼女はカウトーンの内面の緊張を知りもしなかった。
彼らは映画「Y-ファイル」が終わった後、町をしばらく散歩した。不幸にも カウトーンは朝早く起きなければならないので夜中にはバンガローに戻らねば ならなかった。彼らは地球のオペラを写しているホログラムスクリーンの 前でたちどまった。ツアントラは大層興味を示したようだった。 古いテラのイタリア語で歌われていたのでカウトーンには一言も 理解出来なかった。
「一体全体あれは何だい?」彼は知りたがった。
「愛・・・!」彼女は静かに答えた。
カウトーンは返事をしなかった。
「愛・・・一体それは何だ?誰も僕を愛してくれたことは無かった。」 彼は思った。彼はツアントラを見た。彼女は全く可愛かった。心臓が 早く鼓動した。「彼女が僕を愛してくれたなら。聞くのが怖い。 時間を置くべきだ。彼女は逃げ出したりしないだろうから。」
彼らはさよならを言った。カウトーンは自分自身と内気さに腹をたてた。 彼は彼女を失っていない様に望んだ。しかし彼の恐れは根拠のないもの であった。

*

心したことに、彼女はすぐ後に電話してきた。彼は彼女をキャメロットの 高官のパーティに招待した。ペリーはカウトーンがガールフレンドを 連れてきたことに何も言わなかった。それどころか、彼がようやく 誰か友人を見つけたことを喜んだ。しかし、カウトーンの長期にわたる 問題は生き残っていた。彼は彼女に愛を告白するには全く内気過ぎた。
パーティの後で彼らはローダンのバンガローのバルコニーに座った。 ツアントラは手すりに立って下を見下ろした。ローダンの所有地は 断崖の真上にあった。そこからはポート・アーサーの素晴らしい眺めが 一望できる。都市は星をちりばめた空の様にきらめいていた。カウトーンは 単なる友達であるとはいえ、彼女の傍らで満ち足りて幸福な感じを覚えた。 時が二人を一緒に連れていってくれたらと望んだ。
「美しい景色ね。」彼女は静かに言ってカウトーンを見た。彼女の大きな青い目 はカウトーンの心臓をこれまでに無くどぎまぎさせた。
「ああ、キャメロットは美しい世界だ。」彼は答えた。
「他にももっと美しい世界があるわ。その一つに私はすぐに行こうと 思っているの。」ツアントラは言った。
カウトーンは自分の耳を疑った。
「何だって?」彼は知ろうとした。
「私はシヴェリガー(Sverigor)に行きたいの。子供の頃、其処にいたのよ。 美しい世界よ。私はキャメロット基地の職場に応募するつもりよ。」 彼女は説明した。
「でも、君は学校の教育も終えていないじゃないか。 キャメロット基地での資格を別にしても!」
ツアントラは再び彼に向き直った。彼はほとんど彼女とキスしそうに なった。
「何人かに相談したわ。彼らの考えでは私はそこでも同じように 必要な訓練を受けられるそうよ。キャメロット人は規則に関して テラナーほど堅物じゃないの。」
「大いなる利点だね。」カウトーンは同意した。
「そう、まさにね!」
「シヴェリガーはキャメロットから随分遠くだね。そんなに急がなくても。」
「この愛する惑星に住むことが私の一番の望みなの。」彼女は言った。 「いつの日にか私がキャメロット基地の指揮をとるかもしれなくてよ。」
カウトーンは手すりに歩いていって町を見下ろした。彼はさしあたり 愛の告白を控えようとした。もしそうすれば物事が不必要なまでに 複雑になるだろう。彼らは座り心地の良いデスクチェアーに腰掛けた。
「君のことをもっと話して。」カウトーンは頼んだ。
ツアントラは彼の希望に従った。彼女はカウトーンより一つ若い。 彼女はキャメロットで成長した。両親はすぐに離婚した。父親とは コンタクトが無い。彼女は母と義父と一緒に住んでいる。彼女の生活は カウトーンほど悲しいものではない。彼女は「よくある」問題を 抱えているだけだ。彼女が愛した最後のボーイフレンドは数か月前に 彼女を捨ててそのことで少し落胆している。 マリッサの様に彼女は恋愛について彼より体験を積んでいる。
「でもどんな女の子でもそうだろう。」彼は考えた。
会話の間にカウトーンは彼女が何か特別な人のように感じた。彼らは 多くの観点を共有していた。二人とも人生で何かを達成しようと していた。カウトーンにとって、彼が死んで誰も彼のことを覚えていない としたら最悪であった。
二人は長い時間を過ごしたが何も起こらなかった。彼女が帰宅したとき、 カウトーンはまた何時間もテラスに立ってポート・アーサーを 眺めていた。彼は夢の女性に出会ったと確信した・・・。

*

らはしばしばデートを繰り返し、カウトーンは彼女を信用するようになった。 彼はもうずっと前から恋に落ちていたのだが、彼女が本当に好意を持ってくれ ているのか、彼と同様に彼女が彼を受け入れているのか、はまだ知らなかった。 まだ無条件に彼女がそうしたわけではなかった。
彼の20歳の誕生日の直前、NGZ1282年、9月26日、彼らは彼女の家で 再び出会った。カウトーンはここ何週間と言うもの彼女のことしか 考えられなかった。彼は訓練さえさぼった。しかし、ペリーはにやりと笑って これを無視した。
その日、ペリーは少し気が滅入った様子であったか、カウトーンにその理由 を話さなかった。カウトーンとツアントラは1日中テラ公園で過ごした。太陽が まだ暖かい日を落とす秋の素晴らしい日の一日であった。時々カウトーンは 誰かが彼の幸運を妬んでいるかのような感じを感じた。彼は自分に向けられた 悪意に満ちたさげすむような視線を感じた。
彼らが帰宅したとき、ツアントラは嬉しい電話を受けた。人材調整官は 彼女にペリー・ローダンがシヴェリガーのキャメロット基地に対する 彼女の応募を受け入れたと話し、彼女の幸運を祈った。
これはカウトーンにとってショックであった。彼は問題がひとりでに 解決することを望んでいた。今や、ツアントラが10月始め、より正確には 彼の誕生日である10月1日にシヴェリガーに向けて出発するのは明らか だった。彼女はおおはしゃぎだった。しかし、カウトーンは嬉しいはずが なかった。今なお自分自身を持ち直そうとした。
「ほかならぬ自分が彼女の喜びに水をさすことが出来ようか?」彼は 考えた。
ツアントラは彼にシヴェリガーのビデオテープを見せた。カウトーンは 彼女としばらく会えないことを知っていた。少なくとも彼自身が シヴェリガーに行けるようになるまでは。けれども、そのためには ある種の地位が必要であった。彼はペリーの好意に甘えたくはなかった。
「ペリー・ローダン!どうして彼は僕の背中を刺すようなことが 出来たんだろうか?彼は僕がどれだけ彼女を愛しているか知っていたはず なのに。彼女こそ僕の唯一の幸運なのに・・・。」
ドアのベルがなってツアントラの友人が入ってきた。 アルネ・オークワード(Arne Awkward)だった。彼は喜び一杯で彼女を 抱擁した。カウトーンはしだいに除け者の様に感じ始めた。アルネは レーザーポインター(laser pointer)をもてあそんだ。彼はカウトーンが 彼女と二人で過ごそうとしていた最後の時間に現れた。カウトーンは 密かに込み上げるものを押さえていた。怒り、憎しみにつながる制御できない 怒り、が再び起こった。ロビーの破壊者やあのマリッサに対して感じた 憎しみ。アルネと彼はほとんど言葉を交わさなかった。カウトーンは まだカウチに腰掛けあきらめていた。彼は自分が何も出来なかったことを 知っていた。彼は今ツアントラを失った。すぐに彼は再び独りぼっち になるだろう。
「なぜ、アルネが来てから黙っているの?」彼女はすこしいらいらして たずねた。
「僕は彼のことを全く知らないし、君たちが話している話題もそうさ。」 彼は弁解しようとした。「他に何を話せと言うんだい?」
「おしゃべりに夢中になっちゃったわね。じゃあ、家まで送っていくわ。」
「ノー!僕は一晩中ここに居たいんだ。」と彼は考えたが、「ああ、 それは助かる。」と言ってしまった。
彼女はシフトの所に行った。センサーの幾つかが欠けていたのだ。 シフトは生け垣に囲まれた車道に停めてあった。そのため彼女は 交通が分からなかった。中は寿司ずめ状態だったのでカウトーンは 一緒に入る事が出来なかった。彼は外に立ちツアントラが出てくるのを 待った。考え込んで空を見上げ、星を見つめていた。カウトーンは その瞬間嫌な感じを覚えた。数秒後、彼の気分はさらに悪くなった。 もう1台のシフトが右手からあらわれ、ツアントラのシフトと接触した のだ。
運転手達はカウトーンに対し怒り、彼に責任をなすり付けた。 ツアントラはなぜ彼が警告してくれなかったかを知りたがったが 哀れな若いディスペイアーはそこに立って謝ることしかできなかった。 他に何が出来たと言うのか?彼はきまりが悪かった。彼は彼女に さよならを言い、歩いて帰宅した。ペリーは家にいなかった。彼は まだキャメロットの役所にいたのだ。 彼はほとんど眠ることが出来なかった。朝一番に彼女に電話した。 彼は罪を感じて再び彼女に謝った。彼女は冷たく遠慮がちの様に 感じられた。彼女はシヴェリガーでの新しい住所すら教えなかった。 彼女はNGZ1282年10月1日に出発した。カウトーンの人生最悪の日 であった。

*

った一人悲しみにくれて彼は公園をさまよった。彼の夢は全て一瞬にして 砕け散った。ツアントラはシヴェリガーに出発した。さらに悪いことに、 彼の不注意から彼女は二度と会おうとはしないだろう。始まる前に 終わってしまった。他の人々ならそれが人生と言うものさ、他にも女性が いるだろうと言うかもしれないが、彼にとっては違った。彼はもう一度 チャンスがめぐってくるとは思えなかった。彼は身の回りに孤独感を 感じていた。
涙が彼の顔を流れ落ちた。彼はつま先をたてて木に向かってわめきながらけりを 入れた。
「攻撃する相手がちがうぞ、カウトーン・ディスペイアー坊や。」 暗やみの中で一人の男が言った。
彼はゆっくりと近づいた。すぐにカウトーンは彼が誰かわかった。ヴィルサル・ セルだった。
カウトーンは彼の出現に驚いた。
「あなたはここで何を?」
「お前を助けに来た。」
カウトーンは顔から涙を拭いた。ヴィルサルはしたしげな微笑を浮かべて 1本の丸太に腰掛けた。カウトーンはその隣に腰掛けた。
「彼女は他のみんなのようにお前を失望させた。」彼は話した。
「どうしてそれを?」
「私はお前に関心があってずっと観察していた。」ヴィルサルは説明した。
初老の夫婦が暗やみから歩き出してきた。カウトーンとヴィルサルは 彼らが消えるまで見つめていた。カウトーンはため息をついて沈みこんだ。
「何が起こるものやら・・・。」
「お前はたった今悲しい体験をした。もう一度だ、もしそう言うならば・・・。」 カウトーンは驚いて彼を見た。
「何だって?」
ヴィルサルはカウトーンの肩に手を置き激しく揺さぶった。
「お前が生まれてこのかた、誰もがお前に不意打ちを食わせてきた。 誰もが嘘を言い、お前を騙してきた。ツアントラやペリーだって お前に好意を持っている振りをしたにすぎない。」
カウトーンはヴィルサルが正しいと知っていた。人々は繰り返し 彼を打ちのめしてきた。みんなが彼を汚物の様に扱った。彼は ペリーとツアントラだけは違うと望みをかけていたのだ。彼らは 新しい家族になるかもしれないと。しかし、事態は急変した。
「けれど・・・きっとみんな僕が悪いんです・・。」カウトーンは もの憂げに言った。
ヴィルサルは見下したように笑った。
「そうなら、ペリーは目的を果したわけだ。お前は捕らわれているわけだ!」
「そうじゃありません・・・。」少年は反論した。「僕はえこひいき されたくないだけです!」
「私も昔はそう考えていた。私は忠実だったが彼は私を見捨てた。 彼はお前への興味を次第に無くしている。お前は彼の気まぐれに さらされている。不死には退屈が伴うので、かれはお前をつかってそれを 紛らそうとしているのだ。」
「そんな・・・そんなことはありえない。」
「もしそうでないなら、彼はもっとお前の感情を考慮していただろう。 彼はこの少女がお前にとって全てであることは知っていた。しかしだ、 彼は彼女の出発を許可した!」
カウトーンは立ち上がり再び泣き出した。つかの間の間、彼の世界は 順風であった。しかしそれを可能にした当の人物がこれを奪い去った のだ。ペリー・ローダン!
「今こそ強くならねばならない。やつらはお前を望まない。これらの 無知でませた生き物どもはお前の生涯にわたってお前をこまらせてきた。 やつらは愛すべきもの貴重なものなら何でもお前から奪い去ってきた。 社会とそのリーダーの一人ペリー・ローダンはお前の生涯をめちゃくちゃ にした。」
カウトーンは黙った。
「彼はお前に嘘をついた。それとも彼はお前の両親の死について真実を お前に語ったかね?」
この言葉に若いネレス生まれの男は耳をそばだてた。
「彼は両親が事故で死んだと言いましたが。」
「彼らはキャメロットの犠牲になったのだ。ペリーは彼らにネレスに 軍事拠点を築くように命じたがおかしな生物がそのあたりには 暮らしていた。危険にもかかわらず彼らは逗留命令を受けたのだ。 その後、彼らはこの未知生物によってもっともむごたらしい様で 殺されたのだ。そしてペリーは何もしなかった。」
再びカウトーンの体内に憎しみが生じた。なぜペリーは彼に話さなかった のか?なぜ嘘をついたのか?それともヴィルセルが嘘をついているのか? いや!彼はいつも正直でカウトーンに親切であった。キャメロット人は こぶしを握り締めた。
「お前の怒りがわかるぞ。憎しみをぶちまけろ。ペリーはそれに 対する償いを受けろ!用意は良いか?」
彼はつかの間考えを巡らし、自分の感情を探った。恐れ、激怒、そして 憎しみに満ちていた。何度も何度も彼はひどい扱いを受けてきた。 今やそれを止める時だ。彼は復讐をしようとした。カウトーン・ ディスペイアーは何時でも用意はできている!
「ああ、何時でもどうぞ!どうしたら復讐できる?」
ヴィルサルも立ち上がった。彼は腕を外套の中に入れた。
「そう、奴は今日は帰宅してすぐにバンガローに居るだろう。そこで お前は奴の暴政から銀河系を救うのだ。」
「俺には奴を殺せないかもしれないが、すぐには忘れられないような 教訓を与えてやろう。」

*

リーは疲れ憔悴しきっていた。彼はスコッチをグラスに注ぎ、彼の 大きなバルコニーのデッキチェアに腰掛けていた。彼は静寂と ポートアーサーの景色を楽しんでいた。背後にカウトーンの 静かな足音を聞くことができた。
「私のいないここ数日はどうだったかね、カウトーン?」彼は したしげにたずねた。「楽しんだとおもうが。」
「彼女は行ってしまった!」
「誰がいったって?おお、ツアントラのことかね?気の毒だと思うが 彼女は優秀・・・。」
「あんたの命令のおかげで彼女は出発できたんだ。」彼は大声で 遮った。「なんで僕にそんなことをしたんだ?」
ペリーは向き直り立ち上がった。彼はカウトーンに向かってゆっくり 歩き彼を落ち着かせようとした。彼はこの少年がいかに神経質になって いるかを正確に見て取った。
「私には何もできない。私は彼女が仕事につくことを拒否できない、 君が彼女を愛しているからと言って。事態を解決するのは君の仕事だ。 これができないなら、君にすまないと思う、カウトーン。」
「あんたは底無しのうそつきだ。」彼はわめいた。「あんたは僕の気持ちなんて これっぽっちも考えてなかった。あんたは両親がむごたらしく虐殺された 事も話さなかった。」
ペリーは誰が彼にこの情報を与えたのかは知らなかったが、それを否定 しなかった。
「私は君を守るため真実を告げなかったんだ。落ち着くんだ!」
「おお、その通り。ペリーは情け深い。」
カウトーンはペリーの顔に唾をはいた。
「自分を取り戻せ、カウトーン。」
ペリーは顔から唾を拭き取りグラスをわきにおいた。彼はカウトーン のベルトにタゴル剣の木刀を認めた。
「思い知らせてやる!」カウトーンはペリーに叫ぶと次の瞬間には 彼の顔を打ち付けた。
細胞活性装置保持者はよろけて壁にもたれた。彼は鼻から出血して いた。カウトーンは彼に襲いかかった。キャメロット人の腕はペリー・ ローダンの首をに巻き付き締め上げた。かろうじてペリーは彼を 振り払った。彼はようやく再び息をすることができた。その時には 彼の敵が再び襲いかかった。今度はペリーはカウトーンの胃袋に カウンターのキックをいれた。あえぎながら彼は床に崩れ落ちた。 ペリーは警備員に警報を鳴らそうとしたが、その時分子破壊剣( Disintegrator sword)が彼の傍らをかすめた。ペリーは打撃を避けようとし、 トレーニング室に駆け込んだ。カウトーンは彼を追跡した。ペリーは 第二の剣をつかむとそれを動作させた。
「カウトーン、正気に戻れ、冷静になれ。」
「今となっては俺を隷属させようというお前のたくらみは遅すぎる。 彼がやっぱりただしかったんだ。」
「誰が正しいって?」
カウトーンは質問に答えずローダンに剣で切りかかった。しかし今度は 彼は身を守る事が出来た。2〜3度は巧みな剣さばきでカウトーンを 防御に回しさえした。二人は戦いながら居間に戻ってきた。 カウトーンは再び攻撃的になってとうとうローダンの腕に一撃を 与えた。ペリーは痛みで叫び声を上げたが歯を食いしばって戦いを 続けた。カウトーン・ディスペイアーはほとんど満足感を感じた。 とは言え、ペリーは彼の目にはっきりと恐怖を見て取った。しかし めくらめっぽうの激怒と積もり積もった欲求不満が支配していた。
「もう弱ってきたか、老いぼれ。」カウトーンは愚弄した。
「お前のような連中にはまだまだ負けん。」ペリーは返答し突きを 入れた。カウトーンは緑の光の中で剣を怪しく振り回し、多くの 建具に打撃を加えた。彼らの間で機材が燃え始めた。
「お前らみんな俺を犠牲にして甘い汁だけすいやがって。今こそ 借りを返してもらうぞ!」彼は目に涙を浮かべて叫んだ。
彼はペリーをバルコニーに押し出した。二人のタゴル剣は堅く 絡み合った。カウトーンはペリーにけりを入れ、二人は剣を落とした。 カウトーンは花瓶を手にとりペリーのこめかみに叩きつけた。 ペリーは手すりに向かって崩れ落ちた。怒りに溢れてカウトーンは 彼に走りより手すりから投げ飛ばそうとしたが、ペリーは体をかがめ 代わりにカウトーンが手すりを飛び越した。けれども、彼はかろうじて 片手でつかまることが出来た。彼は奈落の上にぶら下がっていた。
「ペリー、助けて・・・助けて!」彼は弱々しく言った。
ぺりーは彼が何処にいるのかほとんどわからなかった。先の打撃で彼は ほとんど意識を失っていたのだ。彼はカウトーン・ディスペイアーの手の 所に行こうとしたが出来なかった。若いキャメロット人は手をすべらし 恐ろしい絶叫と共に奈落に落ちていった。
ペリーは意識を失ってへたりこんだ。

分後、警備員が到着し彼に医療処置を施した。何時間もの間、細胞活性装置 保持者は医療ステーションで目覚めなかった。彼はすぐにカウトーン・ ディスペイアーの行方を訊ねたが誰も彼を探していなかった。すぐに調査 チームがバンガローに送られたが、ずたずたになった死骸を見つけただけ であった。
ローダンはカウトーン・ディスペイアーの喪に服した。家族生活が 軌道にのっていたに違いないのに。
ペリー・ローダンはカウトーン・ディスペイアーの悲しい章を早く 忘れたいと思ったが、これは彼にとってそれほど簡単ではなかった。 彼は若いキャメロット人に責任を感じていたし、彼にとっての息子の ようなものだったのだ。とは言え、今や彼は死んでしまった。
彼はカウトーンの内面で何が起こっているかをほとんど理解できなかった。 人々は繰り返しカウトーンに辛くあたっていた。彼が本当の愛情を体験 した事は一度もなかった。欲求不満と激怒が彼の20年の生涯につもり 積もっていて、おそらく誰かがそれに火をつけたのだろう。
数週間後、ペリーも誰がこれに責任があるかを知った。ウィルサル・セル は、ペリーへの彼の憎しみが一人の命を失わせた事を認め、自ら出頭 した。
かつての主席教官にたいする裁判は、彼が自らの罪を認めたため、速やかに 進んだ。彼はリハビリテーションクリニックに遅られ、そこで20年を過ごさねば ならなかった。数カ月後、ツアントラ・ソリンガーはカウトーン・ ディスペイアーの死を知った。彼女は明らかに失望したようであった。 けれども、ペリーは彼女に彼女がカウトーンの生涯の恋人であったことは 告げなかった。

*


新銀河暦1291年、キャメロット

ーマー・G・アダムスはカウトーン・ディスペイアーの悲しい話を 終えた。アウレクとサムは明らかに心打たれたようであった。
「悲しい話だ。」ソマール人は反復した。
「それだけではありません、なにせ彼は生きているようですからな。」 アウレクは極めて冷静に指摘した。
ホーマーは彼のグラスのソーダ水を飲み干した。彼は頭を振った。 彼らは二つの基地を失った。ツアリトとガタスは残忍な攻撃を受け その職員たちはむごたらしく殺された。彼らの知っていることと言えば 組織の名前「モードレッド」と一人のメンバー、カウトーン・ディスペイアー、 そして目的がキャメロットの破壊であることだけだった。
「ヴィルサル・セルはどうなりました?」シガトーン(Siggatone、訳注 サグギター人?)のアウレクは訊ねた。
ホーマーは眉をひそめた。彼は宇宙アカデミーの元教官についての データを彼のシントロニクスで検索した。
「コンピューターによれば、ヴィルサルはまだクリニックにいて カウトーン・ディスペイアーの死に苦しんでいるようだ。医療記録 は彼の精神の混乱がまだ増加していると述べている。彼は 自分が太陽系帝国に住んでいて太陽系元帥であると信じ込んで いるのだ。」
アウレクは眉を上げソマール人を見た。彼はサムもまたキャメロット にいて、少なくとも一人は知人がいることを喜んだ。ホーマー・G・アダムス とは数日前に会ったばかりだ。とは言え、せむしのテラナーは好感が 持て、したしげに思えた。アウレクはサムからローザン(Rosan)と ウイル(Wyll)のノルドメント(Nordment)夫妻が初めて長期休暇に 出かけたことを聞かされた。二人は豪華船<ロンドン>および <ロンドンII>での冒険での仲間であった。
ジョーク・カスカルとサンダル・トークは乗員の訓練のために <タクヴァリアン>に戻っていた。彼らは数週間前には丁度キャメロット にいたが、今は新しい船の乗員を太陽系帝国の古い習慣に従わせようと していた。
「ジル・リーカン、ネレスでの唯一の生き残りのキャメロット人の 事を話しましたね。おそらく、彼女が我々に何か話してくれるのでは ないでしょうか。」サムが提案した。
ホーマーは手を振って反論した。
「あの女性は完全に狂っている。」細胞活性装置保持者は説明した。 「当時、我々は正気に戻そうと試みたが、彼女は意味をなさない 理解不能な戯言を発するだけだった。」
「ひょっとしたら、今は意味があるかも!やってみましょう。」 アウレクは言った。
ホーマーは賛成した。彼らはシフトを使ってリハビリテーション クリニックに行った。
「ふーむ、カウトーン・ディスペイアーに係わった人間はみんな ここに来るようですね。」アウレクはヴィルサルとジルを暗に示して 冗談を言った。
ジルはベッドの上に無関心で座り体を前後にゆすっていた。
ホーマーは彼女に話しかけたが返答は無かった。数分後、彼らは この試みを打ち切ろうとしたがアウレクは早々にあきらめはしなかった。 彼はジルを掴み、彼女は大きく見開いた目で彼を見た。サグギター人 はそこに恐れと狂信を見たと信じた。
「カウトーン・ディスペイアーは生きている!」彼は大声で言った。
今度は彼女は反応した。その女性は金切り声で笑い始めた。 アウレクは耳を覆わねばならなかった。
「もうおしまいよ!あんたたちみんな地獄行きね!」彼女は怒鳴りたてた。
「キャメロットの最後を決定づけるのは彼の運命よ!彼は当時これを 予言したわ!」
「誰が予言したって?」三人は一斉に訊ねた。
けれどもジルはそれ以上答えなかった。彼女は立ち上がり駆け出した。 サムにけりを入れアウレクを引っ掻いた。監視人たちがやってきて 直ちに彼女を落ち着かせた。三人は落ち着かない状況に残された。

*


新銀河歴1291年、デジャベイ, 太陽系から14788光年

ジャベイ(Dejabay)星系は無人であった。大気を持つ唯一の惑星は 砂漠惑星デジャベイIであった。モードレッドの基地はこの荒れ果てた 惑星にあった。巨大な格納庫が地下に作られテラー(terror)級の 重戦艦の着陸を可能にしている。
<バーダン>はナンバー1の命令でこの星区に接近し、すでに 着陸体制に入っていた。直径3.5kmのクエーサー級の戦艦は堂々と 地面に降り立った。
<バーダン>の周りには直径「わずか」1kmの他の7隻が立っていた。 これらはモードレッドの指導者たちのものであった。全部で9人の指導者 がいた。彼らは全てナンバーを持っていた。首領はナンバー1で、その正体 は誰も知らなかった。ナンバー2はカウトーン・ディスペイアーで ナンバー1の右腕になっていた。
ハッチが開きディスペイアーはタラップをゆっくり歩いて降りた。歓迎委員は 既に彼を待っていた。基地の司令官、ジョーグ・ロッド(Jerg Rodd)は 銀灰色の騎士の前で敬礼した。
「デシャベイIに貴方をお迎えできて光栄であります!」
「つまらないお世辞は止めて会議室に案内せよ。」ディスペイアーは 陰鬱に返答した。
ジョーグは内心たじろいだ。汗が彼の額を流れた。ディスペイアーは 予断を許さない。彼は失敗には死でもって罰する。ナンバー1以外の誰も この仮面の下に誰がいてどんな運命が彼に起こったのかを正確には 知らない。
それ以上自分自身を売り込むような試みはせずに、ロッド司令官は 上官を部屋に案内した。そこには他のナンバーたちが既に待っていた。 ただ一人、ナンバー3だけが任務の途中で時間までにここにはこれない だろう。
デニス・ハーダー(Dennis Harder)、ナンバー7でテラナーである、は ディスペイアーをなめるように見た。彼は黒いキャメロット人の好敵手 であった。彼は現実家でディスペイアーが彼らに語った運命やその類の ものは信じていなかった。ディスペイアーは立ったままを好んだが、他は 椅子に座った。
部屋は暗かった。中央には彼らが座った大きな机があった。机の正面には モードレッドのシンボル、めらめら燃えている炎の中の城、を写す鏡の壁 があった。ナンバー1はその背後にいた。彼は副官たちを歓迎し会議が 始まった。
「我らは作戦の最初の成功を論じるためにここに集まった。」ナンバー1は 開催を宣言した。
たずねられることなしに、カウトーン・ディスペイアーは話始めた。 モニターが明るくなり、最初の2つのキャメロット基地の最後の様子を 示した。
「私はツアリトとガタスの基地を破壊した。」彼は報告した。「我々の 仕事の露呈は最小限に押さえられた。キャメロット基地は完全に 破壊された。ツアリトにおける敵部隊は全て抹殺された。ガタスでは 我々の事を不死者どもに知らせるため数人のキャメロット人をわざと 逃がした。」
聴衆は静かにうなずいた。
ナンバー4のラサルのアルゴン(Argon von Lasal)、アコン人で <ゲッチスバーグ(GETTYSBURG)>の司令官、は立ち上がり、論評を 加えた。
「ディスペイアーはうまくやったようだ。私はすぐに彼の後に続こう。 スフィンクス(訳注:アコン人ならドローワーと言うべきでは?)と アルチェス(Archez)の基地の攻撃はすでに予定済みだ。」
アコン人は自分の種族に対する哀れみを感じていないようであった。 モードレッドの支持者は全て自分のテログループの理念を確信していた。 彼らのほとんどにとって、金と権力が最も大事であった。幾人かは 天の河銀河を変えようとしていた。ディスペイアーは後者に属していた。 彼の動機はキャメロットへの憎しみと天の河で起こっている事件の推移を 変えたいと言う衝動であった。彼は何かを成し遂げたかったのだ。
「キャメロットはもう終わったも同然!我らが占領するのだ!」ナンバー6 のホラチ・ディーベルズ(Horach Diebels)が叫んだ。
しかし、ディスペイアーはそのスプリンガーの言葉を否認した。
「どんなことがあっても不死者どもを過小評価してはならない。ペリーと アトランは深淵の騎士だぞ。偉大なる宇宙のパワーが彼らと共にあるのだ。」
デニス・ハーダーは笑い転げ始めた。
「ディスペイアー、我らに宇宙のパワーと魔法についての馬鹿げた 迷信をわけ与えたまえ。天の河で唯一の魔法はギャラックス(Galax、訳注: NGZ時代の通貨)だけだ!」
銀色の騎士はナンバー7に歩み寄った。彼は手を上げ神経を集中した。 ディスペイアーはハーダーに自分の首に手を回し締めさせた。ナンバー7は 暗示に従った。彼は息を切らして喘いだ。
「思うにお前の信仰不足は嘆かわしい、ハーダー。お前もギャラックスと 同様に大宇宙の機構の中では取るに足らないちっぽけな歯車にすぎない。 お前には宇宙のパワーと魔法の背後に何があるかなど絶対にわかるまい。」
「もうよかろう、ディスペイアー!放してやれ。」ナンバー1が介入した。 一方では彼はこの教授を大いに楽しんだ、他方ではカウトーン・ディスペイアー はやり過ぎてはいけない。
「仰せのままに・・・!」
「はい!」ハーダーは息を切らして呼吸した。
そこいる人々の間に静寂が支配した。ディスペイアーは再び自らを 印象的に一目をおかせた。
「戦力を出し惜しみするのは無用だ。我らの次の目標はオリンプ。」 ナンバー1は背後から決定した。
「しかし、議題はプロフォスについてのはず。」アラ・オラン・タズン( Ara Oran Tazun)、ナンバー5、は発言した。
ディスペイアーも同じく驚いた。彼はすでに特殊工作員を訓練していた のだ。
「計画段階は終わったと思う。ナンバー7の助言通り、我らは銀河系を 経済的に弱めるべきだろう。そのためにオリンプを攻撃しようではないか。」
「オリンプを攻撃?実現不可能な計画です!」アルコン人エロン・クオーター マギン(Eron Quartermagin)、ナンバー9、は口をはさんだ。 クオーターマギンはアルコン皇帝とのコネクションを持つためモードレッド の重要人物になっていた。
「キャメロット基地は重要な工場の近くにあり、破壊されねばならない。」 ナンバー1は命じた。「工場もまたしかり。カウトーン・ディスペイアーが 指揮を取れ!」
カウトーンはこの重要な一撃を指揮することに誇りを覚えた。
「誰がプロフォスのキャメロット基地の破壊を行うのですか?」
「ナンバー8!」
この声でがっしりとしたエルトルス人が耳をそばだてた。ベン・トライル( Ben Trayir)は<沖縄(OKINAWA)>を指揮していた。彼女もまた基地を地上から 抹殺するのに十分な工作員を有していた。
「ディスペイアー、オリンプへの攻撃の後、キャメロットへビデオメッセージ を送るのだ。これからがお前の仕事の始まりだ。成功の報告を期待するぞ。」 モードレッドの神秘的な首領は会議を終えた。
ナンバー8とナンバー2はおのれの任務に取り掛かった。

*

ウトーンはオリンプの作戦を速やかに終えようとした。地球と並んで 経済の中枢となっているこの重要な惑星はツアリトよりずっと堅固に 守られている。ガタスとは違って、人口の多い惑星では気付かれずに 作戦を始めることは出来ない。キャメロット基地は主要大陸の 首都トレードシティにあった。巨大都市の背後には山岳地帯が広がっている。 カウトーンはいくつかの事実に目を止めた。太陽はボシックの星として 知られている。オリンプの直径は11114km。自転周期は28.6時間で 重力は1.03g。平均温度は摂氏34度。天候は、赤道部での激しい嵐を別にすれば、 常に明るく太陽に照らされている。
<バーダン>は超空間を離れただちに未知の勢力より送られた隠れ蓑を 動作させた。
「コーレイ提督、惑星に接近しキャメロット基地に照準を会わせよ!」
ディスペイアーは全てのキャメロット基地の座標を正確に知っていた。さらに、 キャメロットについての情報もあった。銀河系の勢力グループに所在を 知られていないというペリーの利点はモードレッドに対し無効であった。
<バーダン>は秒速15万キロでオリンプに向かって飛行していた。 次第に速度をゆるめていった。<バーダン>は防衛艦隊に気付かれる ことなくこれをやりすごした。カウトーンは惑星上のキャメロット人を 走査した。彼らは最後が迫っていることを知るよしもなかった。
<バーダン>は大気圏に突入し停止した。
「目標捕捉!」ディスペイアーは命じた。
「準備完了、サー!」
「撃て・・・!」
これまた隠れ蓑に守られたトランスフォームロケット(transform rocket) が発射された。それは急速にトレードシティに接近した。<バーダン>は すでに向きを変え軌道を離れていた。
「爆発まで30秒。」ケネス・コーレイ提督が報告した。カウトーンは 自ら秒読みをした。探知機が爆発を記録するために送られた。
20秒。
トレードシティからの映像が示された。日曜日であった。ほとんどの人々は 休暇であった。ロケットは小さな破壊力しかないとは言え半径500メートル 内のあらゆるものを破壊するだろう。
10秒。
カウトーンは再びオリンプの人々を走査した。彼らはまだ生活を楽しんでいたが、 数秒後には創造主と対面するだろう。
ロケットは爆発5秒前に目に見えるようになった。それは目標に直撃した。 巨大な爆発が都市をゆるがした。火と煙のきのこ雲が、かつてキャメロット 基地と工場の会った場所のおよそ200メートル上空に立ち上った。 目標を達成して<バーダン>は現場を離れた。カウトーンはアンドロイド を使ってキャメロットにビデオメッセージを送っていた。

*

ダムス、アウレク、そしてサムは過去数日、ほとんど眠れなかった。 ツアリトとガタスへの攻撃後数日は何も起こらなかった。おそらく モードレッドは他の目標を追いかけているのだろう。ロルフ・フリードベル がビジネス旅行からたった今戻ってきた。かれはソルから18000光年ほど 離れた惑星ツリマン(Turiman)でのTAXITに対する取り引きを停止してきた。 最初の悪いニュースはジル・リーカンの死であった。彼女は自殺したのだ。 死体の写真はそこにいる人すべてに衝撃を与えた。キャメロット女性は 目を見開き自分の動脈をかみ切っていた。保安上の理由から、アダムスは ヴィルサル・セルにも事件を伝えたが、その男は老けて、疲れきって 弱々しかった。彼は脅威にも助けにもならなかった。
3人の男は再び会議室に座っていて、そこに第二の悪いニュースが届いた。 一人の士官がアンドロイドからカプセルに詰めて受け取ったビデオを 持ってきた。それはモードレッドからのものであった。アダムスは モードレッドがキャメロット基地の座標ばかりではなく主要惑星まで 知っていることにショックを受けた。モードレッドから安全な場所は 何処にも内容に思える。
騎士に似た姿がホログラムに現れた。
「お久しぶりだ、キャメロット人諸君!特にペリー・ローダン。 もっとも彼は居ないようだが。私はカウトーン・ディスペイアー。 ご覧の通り、私は変わった、ローダンのおかげだ。」
彼の言葉にあざけりと軽べつが読み取れるだろう。
「オリンプの基地はたった今破壊された。工場と通行人も巻き添えに なった。当然のことながら、諸君はショックを受けたろうが まだまだ続くぞ。諸君等はモードレッドと妥協点を見いだすことは 出来ない。我々はすでにキャメロットに処罰を科した。その罰とは完全なる 抹消だ!」
ホログラムは消えた。アダムスは蒼白になった。かれはシントロニクスに 走っていってディスペイアーのメッセージの真偽を確かめた。彼の 言うことは正しかった。オリンプのキャメロット基地はもはや 存在しない!

終わり

モードレッドはすでにキャメロットにかなりの損害を与えた。カウトーン・ ディスペイアー、キャメロットの新しい大敵の暗い運命を見てきた。 英雄たちがモードレッドに対して行った行動はラルフ・ケーニッヒによる 第3話「危機の中のキャメロット」で語られる。


このエピソードは1999年8月16日に貴方の元に届けられるだろう。


(c) 1999 PROC All rights reserved. ドルゴンサイクルは非商用のファン作品である。 主編集:Holger Ho"pfl、翻訳:Thomas Steinborn、評論:Ju"rgen Menge、 カバー画:Stefan Lechner、著作:Nils Hirseland。 ペリー・ローダン宇宙のあらゆる権利はVPM in Rastatt, Germanyに属する。